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菜の花台は春のサシバ・ルート

投稿者: Avocet 掲載日: 2013/5/7 (2319 回閲覧)
  菜の花台は春のサシバ・ルート
(サーマル連鎖が違うから秋とはルートが別)
 
  2013.5.1 タカ渡り観察グループ 池上 武比古  
   神奈川県西部、秦野市北で大山、ヤビツ峠までの林道途中、菜の花台(標高600m)でのタカ渡り調査はこれまでの記録を大きく塗り替えた。春の調査は5年目だが、これまで1シーズンに20回前後の観察をしても多くて150羽程度のカウントで、この春も「本当にルートなのかな」という疑念は頭から離れなかった。が、頑張ってはみるもので、7回の観察で簡単に200羽を超えて記録を更新した(もっとも、それ以降はお天気が安定しないので観察は難しくなっている)。

 
 

〇春の渡りは「集中と分散」

 春のサシバの渡りは3月中旬から始まって5月半ばまで分散化している。集中するのは3月末から4月の10日前後までというごく短期間で、この春は4月1日から10日まで6回の観察で217羽を記録したが、それ以降は秋のように2次、3次のピークは見当たらなかった。

 春観察をしている菜の花台も平山農道(静岡)もサシバの出方は高知、徳島と連動していて(特に高知の動きが太平洋岸の渡りに関連深いようだ)、われわれは西日本で出ればプラス2日ぐらいに観測日を設定しているが、この春は西日本の出方は不調で10日ごろ以降はぱたっと止まってしまった。

 それは天候との関連が深い。春のお天気は秋よりも不安定で、この春は10日以降晴れていても南風が強く、気象条件は不安定だった。サシバ衛星追跡では、春は台湾から島伝いに戻ってっ来るはずが、台湾から大陸に行き朝鮮半島から飛来する個体が明らかになったが、それだけ西の天気は不安定なのだろう。しかし、この短期間の「集中」の結果で、「分散」下ではわからないサシバ渡りのパターンが見えたようだ。

〇春のルートはまるで別

 その一つは、渡りルートは秋とは別に考えないといけないということ。サシバ、ハチクマなどが営巣地から冬季に東南アジアに行くときと、営巣地に戻るときの日本でのルートは別であることは、樋口広芳さんらの衛星追跡(「鳥たちの旅」)で明らかになっているが、かねてから「なぜだろう」と気になっていた。

 例えば秋にサシバ7千羽以上の実績がある伊良湖岬では、90年代に5年間春の観察をしたが、サシバの記録は500羽程度。この落差の理由は、ケーガンの「鳥の渡りを調べてみれば」を読んで分かる。それはタカには「半島を先に先に飛ぶ習性がある」からで、さらに海風のサーマル・ストリートを考えると(「サシバの渡りとサーマル」については「ふれあい」HP、「調査研究の記録」を参照願います)、秋に伊良湖には集中するが、春となると西の三重県には突出した岬はないから、東に行くサシバが伊良湖に向かう理由はない。

 東日本の太平洋側で春の観察データを「タカ全国ネット」に報告しているのは菜の花台と平山農道(静岡)であるが、平山農道は秋に1万羽程度を記録していながら春は5百羽程度。伊良湖同様にこの落差も極めて不可解である。
 だが、もともと静岡の杉尾山・平山林道で秋に1万5千羽を記録している理由はまだ分かっていない。たとえば秋の白樺峠は安曇野から松本平に吹き上げる山岳傾斜風、谷風で渡りのタカが集中するのだが、杉尾山・平山林道の北4キロほどの山稜をサシバが3,4千羽も次から飛ぶのは、山岳波(ウェ−ブ)に乗ったとしても、どこで谷風のサーマルに乗ったのかは分かっていない(この秋には、われわれは秦野の観察に加え、現地でその謎に挑戦する)。

 それに春観察で、サシバのカウントが平山と菜の花が連動しているところをみると、平山で見ているサシバは太平洋岸沿いに戻る勢力であって、秋に甲府盆地方面経由で飛来したとみられる中部地方北からの大量のサシバは、平山とは別の場所を戻っていると考えたほうがよさそうだ。

〇菜の花台の好条件

 ひるがえってわれわれの菜の花台はどうか、秋の権現山観察ではサシバは500羽程度のマイナーなポイントではあるが、春となるとこれまでに150羽の帰還を確認しており効率がいい、なぜか。また、春秋ともに菜の花台と、南南西4キロの権現山(標高244m)をダブル調査して調べた結果、秋は権現山、春は菜の花台の結果がよかったのだが、どうしてそうなるのか。伊良湖、静岡の結果と併せて考えてきたのだが、この春の「集中」でやっと謎は解けたような気がする。

 その答えは単純である、サシバはサーマルでソアリングして上昇、滑空して次のサーマルを探して乗る、という省エネルギー飛行をするから、たまたま飛んできたところで乗ったサーマルの導くままに飛んでゆく、秋の秦野周辺でのその行き先は権現山、春は菜の花台ということなのだ。

〇秋はなぜ権現山に来るのか

 秋の権現山で見るサシバの渡りは三多摩方向からのがメイン(時には鎌倉方向から飛来する)のようで、それらが東の伊勢原方面から飛んできたとして、最初にぶつかるのは大山から権現山への山稜のサーマルである。

 大山から南麓に山稜として分岐しているのは南へ浅間山、高取山、念仏山、善波峠、弘法山、そして権現山まで続く約12キロと、南西へのヤビツ峠、三角山(菜の花台)までの5キロの2本である。東からのサーマル乗ったサシバは、2本の山稜のうち先に出っ張っている権現山までの山稜に出来るサーマルに乗るだろうから、菜の花台への山稜へ行くことは考えにくい。
権現山に来たサシバは秦野盆地に入ってサーマルを補給し、渋沢丘陵から赤田、万葉公園方面に抜けるようだ。ならば、春はどうするのか、秦野周辺のサーマルの所在を見て考えてみる。

〇秋は赤田ルートがメイン

 高松山の南側に平らな山頂の松田山(チェクメイト・カントリークラブ)があって、その西側にパラグライダーの離陸場がある。そこのパラグラ・インストラクターにお話を伺うと、離陸場があるのは300mほど崖下に東名高速があって、排気ガスやアスファルトで暖まった上昇気流があるからだが、気流のリフトが弱いので、テイクオフすると本格的なサーマルのある場所を目指して飛行するという。

 パラグラの飛行はサシバと一緒で、サーマルを探しその上昇気流でソアリングして上がり、滑空して次のサーマルを探してそれに乗るというパターン。だからパラグラには気象条件へ判断力が問われるとともに、サーマルの所在が頭に入っていないといけない。

 その説明によると、離陸して体勢を立て直すと南の赤田か北の高松山に行くという。赤田には東名高速上下線のSAがあって、広大な駐車場で出来る安定したサーマルがあって、高松山にも安定した谷風があるようだ、さらに丹沢南麓はどこでも谷風のサーマルが期待できるという。



 


 インストラクターの話を総合すると、秋に海岸沿いに飛来したサシバは開成町のアサヒビール工場でできたサーマルに乗って上昇、明神ヶ岳に抜ける。工場ができる前は矢倉岳に向かったが、今はルートが変わり、矢倉岳で浮上するのは北、ないし東の丹沢からの勢力のようだ。

〇春は赤田ルートには行かず?

 ならば、春に万葉公園で観察をしたとしたら、サシバの逆行が見られるだろうか、どうも万葉公園の春はルートに乗っていないように思える。なぜなら、秋のようなアサヒビールや矢倉岳というサーマルが発生する好条件が、万葉公園反対側の御殿場市街周辺で考えにくいからだ。

 それに気が付いたのは4月1日のサシバ66羽を記録した時である。タカ柱ができること5回、最大は14羽だった。秋に鎌倉で観察している人は「春にも秋と同じタカ柱ができるとは思わなかった」と驚いていたが、私が1日に「えっ」と思ったのは、サシバが飛来する方向である。

〇そうだ、高松山方向から飛んでくるんだ

 春も、秋にサシバが向かう赤田、松田山方面から飛来して来るように何となく考えてきたが、1日の個体は、西の杉林越しに浮上したかと思えば、頭上北のはるか上にいきなり現れたり、または2ノ塔、3ノ塔までの谷合に群れとなってソアリングしたり、まちまちだが、ほぼ全部の飛来方向を推定すれば北の高松山なのである。

 そう、インストラクターに教えてもらった高松山なのだが「そうなんだ、秋とはルートが違うんだ」と思って望楼から、あらためて西を眺めると高松山の向こうには大野山越しに御殿場市街、そのまま直線を引くと宝永火口と愛鷹山との間に十里木高原が見える。

 菜の花台は秦野盆地の北、羽根、菩提に突き出て、北、西、南はきつい斜面、だから10時ごろには谷風で台上空は始終サーマルが形成されているが、高松山方向から来たと思われる個体は、ときには台上空のそのサーマルを飛び越していってしまうから、高松山方向にできているサーマルはよほど大きいのだろう。

 サシバの飛行はサーマル探しに終始していると思う。単独飛行で低く飛んでいるのは、サーマルを捕まえられえなかった可哀そうな個体で、たとえば台の南を低空で飛んでいた個体が何かのきっかけで東麓に急上昇して、台の上に上がることがあるが、視力のすぐれたサシバにも色がついていないサーマルの所在はわからないのだろう。飛んでいて「これだ」と思ったら、そのサーマルに乗り、それを見つけたほかの個体が「俺も俺も」と集まってタカ柱ができるのだろう。

 サシバは地磁気でだいたいの飛行方向は頭に入ってはいるが、具体的な飛行コースになると行き当たりばったりになっている、だから御殿場方向から東に向かうと、まずはぶつかった高松山のサーマルに入って、それより南の松田山、赤田には考行かないと考えた方が自然だろう。かくして、秋とはまるで別のコースになってしまう。

〇春は単独飛行?

 春のサシバは単独飛行、という見方が多い.ようだが、そうではない。秋のように群れることができない要因が多いだけのことで、例えば、サシバが動き出すのは3月中旬からで、5月半ばまで続く長期間であることをみると、必然的に分散化するが、条件として秋とは大きく違うのは天候だろう。

 われわれは毎日観察するということはできないので、1週間予報を参考に実施日を決めるが、この春は晴れるのかと思えばそれは続かず雨の日が入った。雨のあと2日後は風も安定して好条件ということがいわれるが、2日後になっても、この春はなかなか風が穏やかな日はなかった。

 サシバの飛行にいい条件とは順風、風力が弱い、気温の順調な上昇、有視界飛行のサシバの判断を邪魔しない程度の曇り以上、などだが、順風であっても南風が強い日が多い。風が乱れると、サーマル・ストリート狙いのサシバには困った事態で、南風は順風に近いとしても程度ものである。

 天候が安定していないから、サシバはなかなかサーマルを見つけることができなくて苦労していることは、その飛行を見ていてわかるが、気象条件がいいと西でサーマル・ストリートに乗ったのか、集団で渡りタカ柱を形成する。

 サシバも好んで単独飛行をしているのではないことは、いつもサーマルができる台上空にソアリングしているサシバがあると、そのうちどこからか集まってくるから、後から来たサシバは「しめしめ」と思っていることだろう。
南風の強い日に台上空でソアリングしているサシバを見ていると、飛去する東に背を向けて、強い南風に頭を持ち上げている姿を見て仰天した、そこまでして上昇したがっているわけで、事実その静止した姿勢で高度を稼いでいたのである。

〇ノウハウの集積

 菜の花台で春に観察するのは5年目に入る。当初の2,3年はさんたんたるもので、何とか目鼻がたってきたのは女性陣が参加してからである。私も両目の白内障手術をして、視力はよくなったと思うが、「あれっ、何?」という女性陣の指摘で双眼鏡をあててみても見つからないことが多い。仮に私一人で観察していたら、10分の1も見つけられないだろう。
そして、この春の成績が良くなったのは何と言っても観察人が増えたことだろう。いつも10人前後はいるし、ふれあい外からの参加も増えている。人が増えれば眼も増えるから、菜の花台のようにどこに出現するのか分からないポイントでは助かる。

 また視点も新たになるから、いつもノスリが出てくるところだと警戒が甘い場所でも見つかる。たとえば低空で飛んできたのか、台東でいきなり急上昇したり、これまではよく見ていなかった北の谷合に出たのを見つけたりで観察のポイントが増えている。

 この春の観察で春の戻りパターンの概略はわかったような気がする、次の課題は不安定な秋の渡りの解明と、静岡の杉尾山・平山林道のルート探索である。(了)

 
 
 秦野盆地

赤田上空 5000 m からの俯瞰図

 

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「サーマル連鎖が違うから秋とはルートが別」  ふれあい自然探鳥会・タカ渡り観察グループ 池上 武比古 2013.5.1
2013/5/7 551

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