2010年春タカの渡り観察総括
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- 2010年春タカの渡り観察総括 (webmaster, 2010-6-11 21:19)
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「調査研究などの記録」のページに今回の調査記録表を掲載しています。
画期的なタカの渡り調査でした
横浜市都筑区 池上武比古
この春で3回目になる菜の花台でのタカ観察を5月いっぱいで終えた。3月末から始めて、ふれあいMLで呼び掛けて実施した観察会は20回、渡りを記録したサシバ139羽、ハチクマ38羽、ノスリ53羽でした(仲間や個人での調査結果も含む)。
昨年春が11回の観察で、サシバ14羽、ハチクマ5羽(昨秋はサシバ201羽、ハチクマ36羽)だから、この結果には喜びながらも「いったい、どうなってるの?」と当人たちが驚いたものだ。
○ひたすらに戻ろうとするサシバ
確認数が激増したのは「たまたま山寄りを通ったため」かもしれないが、この秋の渡り調査も5回目になるように、われわれの錬度が上がった結果と勝手に解釈している。と同時に渡り数が多かったことで春の渡りのパターンが見えてきた。
その特徴の一つは春のサシバの飛行高度の低さ、単独行の多さ、羽ばたきながらでも飛ぶひたむきさである。この3要素は次に述べる「不十分なサーマル形成」とも関連するが渡りサシバ約140羽のうち110羽は単独行だった。
菜の花台(標高600m)から見ていると、サシバの多くは、われわれの目の前の高さ、もしくは高くて800mを西から東へ流れていく。時にはサーマル(熱気泡の上昇気流)を見つけたのか、翼を広げたままソアリング(滞空、上昇)を始めるが、サーマルの規模が小さいのか、すぐに旋回をやめて滑空に入る。
ここからが秋との違い。羽ばたいているのです、それも必死のように見える。「おいおい、どこに行くのか知らないけれど、それじゃ疲れちゃうよ」と言いたくなる。
○サーマルの推進力は不足気味
サシバのピークが4月上旬であることを確認したのが、今回の収穫だが、春に初めてタカ柱を見た。菜の花台から南の対面、渋沢丘陵に14羽の柱ができて「白樺峠でも、こんな近くではみられない」という歓声が沸きあがった。
タカ柱は、このときも含めて5回見たが、秋とは規模がまるで違う、上昇する推進力が弱いのだろう。秋の場合は見上げていると首が痛くなるほどに高く、長く、その柱を近くのサシバは見つけて「何だ、何だ」と近寄ってくるので、さらに大きくなる。
春の場合は、集まって上昇を始めても、200mも上がればすぐにほどけ、滑空し切れないものだから、時には羽ばたいている。サシバだって、できることなら、全航程で省エネルギーの滑空で行きたいだろう、ままならぬことの多いのは世の常、そうは行かずに単独行が増え、羽ばたきも加わり、高度は低くなったのではないだろうか。秋とは気象条件がかなり違うようだ。
○意外と多い北帰行組
今回の観察でおやっと思ったのは、大山から塔ノ岳の表丹沢稜線を越えて北に飛ぶのが30羽近くいたことである。われわれは、西から東へ飛ぶ・帰ることを重点に見ていたので、これまでは北行きはほぼノーチェックだった。また観察場所は、大山などの山並みがブラインドになっていたので、よほど注視しないと見えないわけで、実際の北行数は、記録よりもかなり多い規模になっていただろうと思う。これで、八王子からの流れの一端が読めたような気がする。
秋には八王子のカワセミ会が城山湖でサシバ観察をしているが、北から来たサシバのほとんどの飛去方向は南西。ということは、宮ヶ瀬湖から丹沢湖あたりを経由して富士山方向に抜けているのだろう、と推測していたが、この春の観察データを反転すると、秋に多くのサシバたちは大山から塔ヶ岳の丹沢主脈を南西に越えていたことになる。
それでは、この秋は山越えを注視していれば南への丹沢越えの捕捉ができるのか、となると、ちょっと難しそう。というのは、一般的にタカの飛翔を確認して飛去の方向は確認できるが、反対にどこから飛来したのかというのは分かりづらいもので、いつも忽然と現れたのを見つけ慌てて双眼鏡で確認するというのが常であるからだ。
○ハチクマはのんびり
グラフで表せば分かりやすいが、サシバの戻りは4月上旬に集中し、ハチクマは5月中旬がピークとなる。ノスリは時期的な特徴はないのだが、ハチクマとともに、ひたすらに戻ろうとしている気配は感じられない。
ハチクマ、ノスリともに、よくディスプレイをする。急上昇して反転、急降下という動きを繰り返して、あまり移動に急いでいる様子はない。一度はご丁寧に西から急降下、急上昇を4度繰り返して、東に消えていった。まるで芝居の舞台で「さようなら、さようなら」と消えてゆく風で、苦笑したものだ。
なぜディスプレイをするのか、♂が♀の気を引くためにデモンストレーションをしているのではないか、そうすると渡りではなく居つくのか、と考えて「渡り」とはカウントせずにいたが、ああもディスプレイが続くとそうではないよう。
○タカの渡りは分からないことだらけ
このタカ渡りの観測も、始めた当時は「だいたいの傾向がつかめれば、使命は終えるな」と考えていたが、秋にしろ春にしろ、やるたびに想定外の事態が起きて、驚きの連続である。この歳になって未経験ゾーンに入って行くのは、幸せなことだが、それもこれも一緒に遊んでくれる仲間がいてのこと。
この秋には観察を再開しますので、皆さんも遊びに来てください。(了)